みなさまこんにちは。
子供時代からずっと続けてきた魚釣り、その思い出を書き留める 【釣行の思い出】シリーズ。
前回は、はじめて海で30cmを超える大物を釣った時のお話でしたが、第三回目となる今回は、淡水の釣り。時はちょうど1980年代に入ったころ、小学校2年生の時のお話です。
私は小学校時代から高校時代にかけて、兵庫県の川西市で過ごしました。
いわゆる郊外の、山の高いところを切り開いてつくられた新興住宅地です。
前回記事に書いた通り、その当時は家から最寄りのスーパー、ダイエーで釣り道具を買うことができましたが、そこから少し離れたところに釣具店を発見し、度々そのお店を覗きにいっていました。
お店は小さく、ダイエーの店内のように明るくはありませんでしたが、見たこともない釣具がいっぱいで、しかもなんだかこっちの方がプロっぽい。
当時の私には手の届かないものばかり、宝の山のように思えました。
そんなある日、同級生からヘラブナ釣りに誘われました。
別の同級生一人と一緒に、その子のお父さんが近くの池に釣りに連れて行ってくれるとのことです。
当時私は、前回のお話で書いたボートロッドを持っていましたが、池釣りで使えるのべ竿は、1年生の頃にスーパーで買ってもらった480円の竹竿セットしかもっていません。
私は貯めていた貯金をはたいて、件の釣具店ではじめてのグラス製のヘラ竿を買いました。
長さは9尺。2500円くらいの値段だったでしょうか。
本当はもっと長い方がいいのではないかと思っていましたが、12尺は確か4千円以上、15尺は倍以上の値段で、とても手が届く値段ではありませんでした。
そして約束の日、同級生のお父さんの車に乗せてもらって、いざ釣り場に。
そこはゴルフ場近くのため池。
他の3人は皆12尺以上の長い竿で、私だけ9尺。
だだっ広く見えるため池では、9尺では全然物足りないように思えました。
そこで2時間ほど釣りをしましたが、同級生のお父さんが大きなヘラブナを釣ったの以外は、誰も何もつれませんでした。
我々が退屈そうにしているのを見かねてか、同級生のお父さんが場所を移動しようと言い出しました。
なんでも、よく釣れる秘密の場所があるとのこと。
釣れて行かれたのはそのため池から林道を進んでさらに奥にある、非常に小さなため池。
広さにして畳8畳分くらいでしょうか。
しかし、そこには驚くべき光景が。
いままで見たこともないくらい大量の魚が泳いでいる姿が、木々の隙間から漏る光にてらされてハッキリと見えるのです。
エサを付けて仕掛けを投入すると、早速ウキがピクピク動きます。
いとも簡単に、鮒が釣れました。ヘラブナではなくマブナです。
同級生のお父さんは横で見ているだけですが、他の二人も鮒を連発しています。
その後は釣って釣って釣りまくって、10匹以上は釣ったでしょうか。
他の2人は、12尺以上の長さの竿を使っており、狭い池のどこにでも仕掛けを投げ入れられますが、私の竿だけ9尺と短いため、同じ場所にしか仕掛けを投げられません。
しまいにスレてしまったのか、あまりに釣りすぎて警戒されたのか、アタリが少なくなってきました。
そこで、もうたくさん釣ったから帰ろうかという事になり、その池を後にしました。
普段私は、徒歩圏内にあった猪名川に釣りに行っていましたが、今日ほどたくさんの魚を目にしたのは初めて。
あんなに魚が釣れたのは初めてで、まさにパラダイス。
もういちどあの池で釣りをしたい!ということで、後日、父に頼み込んで、車でその池に釣れていってもらいました。
釣りに全く興味が無く見るだけといっていた父も、私のしつこい勧誘に折れてしぶしぶ一緒に釣りをします。
しかしやはり、この池は凄い。
到着直後からすぐにいいサイズの鮒が連発で釣れたので、いつの間にか父も釣りに夢中になっています。
しかし、しばらく釣りをしていると、池の奥の茂みの影から、何やら大きな影が。
「鯉だ!」
今まで見たこともないくらい巨大な鯉が、8畳分くらいの小さな池の中をゆうゆうと泳ぎ始めました。
その鯉が反転するたびに、水深が30cmくらいしかない池の水面が大きく盛り上がります。
前回来た時にはこんなの居なかったはずなのに。
どこからこの池にはいってきたのでしょう?
小学生の私には大きく見えたのかもしれません、体長はきっとゆうに1mくらいはあるなと思いました。
「化け物鯉だ!」父と二人で、その鯉が泳ぎ回る先に仕掛けを投げ込みます。
しかし、まったく餌には見向きもしません。賢いのか?
その後も二人して鯉がおよぐ先々にしつこく仕掛けを投入しましたが、一度も見向きされないまま終了。
まあ、狭い池だからヤツに逃げ場はないはず、次の機会になんとかして絶対に釣り上げてやると心に誓い、釣り場をあとにしました。
その数日後の夜、父が仕事から帰ってきたときに、大量の釣具を持って帰ってきました。
「これどうしたの?」
「チビ池のデカチンを釣るために買うてきたんや」
内容は磯竿、リール、タックルボックス、たも網、針や糸や仕掛け類がたくさん、さらになぜか大型クーラーまであります。
自分で選んだのか店員に選んでもらったのかわかりませんが、釣りに全く興味なかった父が、あの池での釣りで、すっかり目覚めてしまったようです。
しかも勝手に、あの池の名前は「チビ池」と、そしてあの鯉は「デカチン」と命名しているではないですか。
自分のものではないけれども、家に釣り道具が増えたので私は大喜び。
しかし、あの鯉はかなり狡猾、いくら道具をそろえても全く釣りに関して素人の父になんか、絶対に釣れるわけはないと思っていました。
当時の父は結構あちこち飛行機で飛び回っていて土日も休みではない状態でしたが、その後たまに水曜日に休みをとってあの池に行っていたようで、何度か「今日チビ池にいってみたけどやっぱりデカチンは釣れんかったわ」というセリフを聞きました。
やはり釣るのは私だな。そう思っていました。
その数週間後、学校から帰ると、父が興奮気味に「ついにデカチンを仕留めたぞ!」と言ってきました。
「めちゃくちゃ引いたぞ」
詳しく訊くと、なんと今日もまたチビ池に行って、カブトムシ?の幼虫を餌にしてついにヤツを釣り上げたそうです。
ミミズはともかく、カブトムシの幼虫を餌にするなんて想像しただけで気持ち悪いなぁ。
「それでそのあとどうしたの?」と聞くと、「こっちだ」と庭に案内されました。
なんと、そのデカチンを持って帰って来て庭にあった池に放していたのです。
やられた!先を越された!これは私が釣ろうと思っていたのに!
かくして、私は父に出し抜かれ、チビ池のデカチンとの長い闘い?に終止符が打たれたのでした。
絶対に1m以上あるはずと思っていたデカチンは、実際に測ってみると68cmしかありませんでした。
(おしまい)
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